大ちゃん 君のハートよ、位置につけ
笑顔のそばに大ちゃん
「おまえら、そんなとこで何やってんだ」
ふいに頭上から降ってきた声に飛び上がるほどびっくりした。
見上げれば、大野先生が俺らを見下ろしていて。
てか、いつの間に来たんだよ。
気配なんて何も感じなくて、この人忍んでんの?
「なんだ二宮。顔真っ赤じゃねえか」
熱でもあんのか?って聞かれたってそんなの言えるわけない。
ほんとは、ちょっと聞いてよ、大野先生!って肩でもばんばん叩きながら報告したいところだけど、そんなの出来ない。
大野先生が先生だからとか、勿体なくて言えないとか、そういうことじゃなくて、なんていうか。
この状況がまだ全然自分でも理解しきれてないし、理解できたところで俺が相葉先輩の恋人だなんて恐れ多くてとても言えないし、それに何より言ったら全部おまえの都合のいい夢だよって笑われそうで。
そんな俺の葛藤をよそに相葉先輩が無邪気に言い放つ。
「大ちゃん、俺ね。にのちゃんと付き合うことになったの」
いいでしょーなんてちょっと得意気に。
え、そんな簡単に言うの?
ごちゃごちゃ考えてた俺がバカみたいに思えるくらいあっさりと。
「へえ」
言われた大野先生もあっさりと受け流す。
「なんだ。不純異性交遊の報告か」
「異性じゃないよ。同性だもん」
「あ、そうか」
ケラケラ笑う二人に、なんだこれって。
俺だけ置き去りにされたみたいに、目の前でどんどん話が進んでく。
全然ついてけないけど、大野先生は笑わないし、相葉先輩は楽しそうだし、じゃあ、まあいいのかなって。
「それでなんでこんな所にいるんだ?」
そう言ってガラリと保健室のドアを開けたら、そこには当然付き合いたてほやほやの二人がいるわけで。
「なんだ、おまえらもか」
甘い雰囲気を察知した大野先生が言うから櫻井先輩が、どういうこと?って。
「相葉と二宮も付き合うんだってよ」
「はあ?!」
いつの間に?驚く櫻井先輩に、一緒に言おうねって言ったじゃんって。
「翔ちゃん、なかなか言わないから待ちくたびれちゃったよ」
「見てたのかよ!」
「当然でしょ」
とりあえずおめでとう翔ちゃん。男見せたね。
肩を抱いて喜ぶ相葉先輩に櫻井先輩は苦笑い。
そんな二人を横目に潤くんが俺に駆け寄ってきた。
「にの、ほんとに?」
「うん、なんかそう、みたい」
「またまたあ。嬉しいくせに」
もっと喜びなよって言われても、違うよ潤くん。
まだ俺の中で現実が追いついてきてないんだよ。
それでも潤くんが、良かったね良かったねって自分のことのように喜んでくれるから、少しずつ俺の中でも実感がわいてくる。
潤くんもおめでと。二人で笑い合っていたら突然肩をぐいっと抱かれた。
「翔ちゃんのことは松本くんに任せるから、にのちゃんのことは俺に任せてね」
にっこにこ笑う相葉先輩。
潤くんも嬉しそうに笑って、にののことよろしくお願いします。って深々と頭まで下げちゃって。
潤くん、俺の保護者かよって思うけど、やっぱり嬉しいよね。
「おまえら、そこでいちゃいちゃすんなよ」
「なに、大ちゃん羨ましいの?」
「あほか。誰がおまえらみたいなガキの恋愛羨ましがるんだ」
俺をいくつだと思ってんだ。
大野先生がそんなことを言うから、そういえば大野先生っていくつなんだろうねって。
全然先生らしくないし、いつもぽやんとして眠そうで子供みたいとか思うんだけど、妙に落ち着いて何にも動じなかったり。
今だって男子生徒同士が付き合ってるって知っても驚きもせず受け入れてるし。
深く考えたことは無かったけど年齢不詳なんだよなあ。
「大ちゃんいくつなの?」
「いくつに見える?」
だから相葉先輩が聞いたのに、大野先生がそんな返しをしてくるもんだから、女子かよ。思わずツッコんでしまったら。
「ふははははは。二宮くんいい返しするね」
櫻井先輩が大きな笑い声をあげる。
そんな笑われるようなこと言ったつもりはないんだけど、眉を下げてめちゃくちゃ面白そうに笑うから、この人もしかして笑いの沸点低いのかな。
「まあ、いいか。いくつでも」
よし帰ろう。突然興味を失った相葉先輩に、いや聞けやって大野先生が言うけど、やだよー聞かないよーって。
うひゃうひゃ笑う相葉先輩は完全に大野先生で遊んでる。
大野先生も苦笑いしながらも全然怒らないし。
こういうところが先生らしくないっていうか、大人の余裕っていうのか。
だから年齢なんて関係ないよね、なんて謎の締め方をして俺たち4人は保健室を後にした。