転生 カラダにピース
どうも私です☆彡
今日は業(kama)のお話をしていきたい
と思いますヨン☆彡
さて、酒井さんは占い評論家、ということに
なっておりまして、占い評論をするからには
占いに対して超冷静な、妄信するのとは違う
ベクトルの視点をいつも持ち続けていなくちゃな、
と思っているのですが――。
そんな中でも、占星学や占いを研究する上で
どうしても避けられない概念が
「業」(kama)
という概念です☆彡
かつて、占い師がたくさん集まる占い業界の宴会で、
みんななんで占いなんかに興味を持ったのかと
質問したことがありましたが、やはり断トツの理由として
「前世が知りたい」
というのが圧倒的だったんです。とある有名占星術家
の方(たくさん本も出してる)に聞いたら、西洋占星術は、
理論手順だけ理路整然と書いてもダメで、まったく
本が売れなかったが、「前世」 という概念を入れて
前世を占える感受点(惑星)を中心に本を書いたら
爆売れした、と言っていました☆彡
確かに、占星術はそうした 「前世」 を知りたがる人
をひきつける魅力があります。この世に60億の人間
がいようとも、誰一人として同じホロスコープはない。
だからあなた 「だけ」 のかけがえのない人生がわかる
のだ、というのが、占星術のセールストークで、この
文脈はそのまま前世を想起させるからです。
でもまぁ、実際はこの占星術のセールストークは激しく
語弊があり、実のところ同じようなホロスコープの持ち
主などごろごろしています。 分・秒単位のごくごく
些細な差異でもって
「60億人の人間すべてが違うホロスコープである」
と言っているだけで、実際は同じ日に生まれただけでも
ほぼ同じようなホロスコープですし、実際占い館や
イベントで鑑定すると、同級生の女の子同士のグループ
などが鑑定に来るんですが、ほぼ同じようなホロスコープ
なので強弱をつけるのが難しく(^^;;)、最後は霊感山勘
占いになります。 同級生グループ客に対してものすごく
無力感が強いです西洋占星術は(笑)。
さて、そういう、「60億の人のなかの、
たった一人のあなた」 という占星術の文脈は、
「よりにもよってなぜ、わたしは今のわたし
なのか?」
「なぜ、この災厄が他の人ではなく
わたしなのか??」
「わたしはなぜこのような目に遭わねば
ならぬのか??」
「わたしはなぜこのような環境に
生まれつかねばならなかったのか??」
という、業(kama)の概念を自然と想起させますね。
つまり、業研究なくして占星術は片手落ちであり、
業研究の極北こそが仏教なのであるから、
汝の業を知りたければ仏典に当たるがよい、
ということになり、占星学を嗜好する人は仏教もともに
学ばなければ大変な欠落、邪道、外道であることに
なります。
そして業とは何か、どのようなものかを理解しな
ければ、実のところホロスコープを読むなんてことは
不可能です。
では、「業」 とは何なのでしょうか?
我々は業、という言葉をふだん気軽に使って
います。生まれつき障害があったりすると、
「前世の業でそうなった」 とか、ちょっと困難があると
「前世の業でこうなのに違いない」 とか。
親がなぜこんなクズ人間なのかと悩めば、「前世
の業かも知れない」 と思いますし、自分ばかりが
不遇なのも 「前世の業だ」 と思います。望みの仕事に
つけなくても業、病気しても業。
果ては、ニュースで悲惨な事故があると 「業」 だと
思います。こないだの池袋で母子がなくなった痛ましい
事故なども、どうして罪もない、なんの関係もない母子
があのように突然ひき殺されなければならぬのかと
考えると、 「業」 という概念はそういう不条理を説明
するには便利な概念です。
じゃあ、 「業」 とは何かということを、あなたは説明
できますか?? いったい過去、どのような悪業ゆえに
無関係な母子は、悲惨に殺されたのでしょう。説明して
ください、というと、ほぼできません。
「いや、よくはわからないけどたぶん、過去、何か
あったんだよ。そうじゃなければなぜ、あんな、罪も
関係もない人が理不尽に死ぬんだ??」
というぐらいが、せいぜい我々凡人の関の山
ではないでしょうか。かくいう私だって、それぐらい
しか語る言葉を持ちません。全地球人そんな
ものでしょう。
なのに人間は 「業」 があると信じている。
占星学に 「わたしの業を教えてください」 と
たずねる。 とてもおかしなことですね。
さて、この世でもっとも 「業(kama)」 について
研究
てきた学問は何ですか、と言われれば、
それは間違いなく仏教です。キリスト教やイスラーム
では、理不尽や不条理に対しては実に答えは簡単
です。すべて 「神の思し召し」 ですから。
ところが仏教は 「神なき宗教」 ですので、神様の
思し召しです、といって逃げてしまうことができません。
どうにか論理的に、上手く説明しなくちゃいけない。
仏教は現在の量子力学と大変同じで、むしろ量子力学
が起こることを2600年前に予言していたと考えたほうが
合点がいくくらいですが、非常に論理的であります。
ところが、この 「業(kama)」 について、仏教では、
これが宇宙に存在することは認めているものの、
業とは何かということは 「考えるな」 と言うのです。
「ミリンダ王の問い」 という、有名な仏典があります。
ギリシャ人でありながらインド北西部を治めた
メナンドロス王(ミリンダ王)が、仏教の長老ナーガセーナ師
(那先比丘)と、まさに業(kama)とは何かについて三日三晩
討論したときの記録です。
この中でナーガセーナ師は、 「業は確かにあるが、
軽々に説明できないものである」 と言っているのです。
また、お釈迦様ご本人も 「業については考えを
めぐらせてはいけない」 とおっしゃっています。
仏教の根本でありながらも 「考えるな」 と言っている。
さらに仏教はお釈迦様のお心を推量したりすることも
やめたほうがいいとされているので、それについて
深読みすることもやめなさい、とされている。
(一神教のように法律で禁じられているわけでは
ありません。 考えたって無駄だよ、程度のノリです)
ところが、仏教にまぁまぁ親しんできた私の感覚
ですと、これ、仏教によくあるレトリックといいますか、
難しいところなんです。
お釈迦様が 「やるな」 ということはほぼ、人間に
とって切実な問題だからです。
たとえば仏教の禁止事項にはなんと 「天文学」
も含まれていますし、 「医学」 も含まれています。
これらは考えても意味のないこととされ、「業」 と
同様に無駄なもの、とされるのです。
でも、人間が一番知りたいことは、自分のこと(医学)
と、自分は何者なのか(天文学)ですよね???
それを 「やるな」 という。(でも強力な法的禁止ではない)
修行者の生活でも、セックスするな。喰うな。
なんですが、セックスを否定すれば自己存在の
否定にもなるでしょう。 食を否定すれば全員死ななきゃ
ならないわけです。
お釈迦様って、「一番人間がどうにもできない
魅惑的なこと」 を全部 「やめなさい」 と言う。
でも、やめられないです。ということは、なぜ、
「考えるな」 とおっしゃったかと言えば実は、
「考えなさい」
のレトリックなんですね。私にはそうとしか
思えないのです。子どもと同じです。子どもは
「やるな!」 というほどやりたくなる。それで怪我したり
痛い目見たりして、最後は 「ああ、お父さんのいう
通りだ」 とわかるのですが、仏教の 「やるな!」 は、
むしろ、 「考えなさい」 なんだと思うんです。お父さん
の教えと同じで、
「お父さんも昔、きみのように考えていろいろやったが、
それで失くしたものもたくさんあるんだよ。だから
囚われないで、夢中になってしまわないように。人生を
無駄にさせてしまうからね」
というぐらいのニュアンスで 「考えてはなりません」 と
おっしゃっているのでしょう。 だからこれは逆に
「考えなさい」 なのです。
しかし、 「業」 は、お釈迦様くらいの悟りのレベル
になると、自由自在に読めますし、仏典では何度も
お釈迦様が、人をパッと見るだけでこの人の前世は
こうで、ああだった。だから来世はこうなる、と解き明かす
シーンが山ほど出てきます。
そして先ほどのナーガセーナ師も、同じようにミリンダ王に、
「大王よ、業は確かに存在しているが、それは
ブッダほどの悟りの境地にならなければとても
説明できません」 と言っているのですね。
ただ、業は、「意思を持ってなされた善悪の
結果を出す行為」 であると仏教では定義されて
いるようです。
(テーラワーダ協会、A・スマナサーラ、「初期仏教
ブッダが教えた業の真実) 電子書籍版より
「意思を持ってなされた」 「善悪の結果を出す行為」
ですから、意図的に善を積んだとか、意図的に悪を
成したことに対するむくい、と解釈できますね。
だから、試合でいい成績を欲しいので今日、
練習する、ということはカルマですし、やせるために
今日、食事を控えるというのもカルマです。
これを積み重ねて、何度も何度も積み重ねるとやがて
それが結実して 「試合に勝てた」 とか 「10㎏やせた」
とかになる。 実は人間の業も半分くらいはそんなもので
決まっているようです。
だから、今、ものすごくパフォーマンスがよくて、
収入もばっちり、という人は何千年何万年
何億年という転生のどこかで自分の財産を人の
ために使ったのでしょうし、今不遇だ、という人は
他から奪い取ったとか、他を苦しめたとかいうことを
しているのです。
ただ、これが、「全部」 で
ない。 業には種類が
あって、こういう、「毎日やせる努力をすればやせる」
とか、「毎日練習していたら勝てた」 とかいうのとは
別に、人類全体の業や、地球生命全体の業や、日本人
全体の業も、同時進行で受けなくちゃいけない。
たとえば痛ましい事故で罪のない子どもが死ぬ、という
ことは、車を使う現代社会ではどこかで誰かが受けて
しまう業です。
飛行機を作れば飛行機事故で死ぬという業を
受ける人が出てくる。
これはもう、人類全体の業、社会全体の業を
誰かがうけなくちゃいけない。それがなぜ
「うちの子でなければならないのか」 というところに
人間のエゴがあるわけですね。 そしてそこに囚われて
しまうと、肝心なことが見えない。肝心なこととは
「諸法無我」 という仏教の大前提であります。
諸法無我、とは、 「わたしはない」 という意味で、
実は “わたし” というものなど最初からありません、
と言っているんですよ。。。
わたしがないのだから、 「わたしの子ども」 も
いないことになる。
それではあんまりなので、だから仏教では
学びなさい、座禅しなさい、向き合いなさい
ということで、やはり修行しないとダメなんです。
おそらく業も、たぶん、修行手順に従って心身の
汚れを取り払ううちに、なんとなく見えてくるものなの
だろうと思います。
私は今、2か月間、2日断食して、2日食べて、
また2日断食して――、という生活をしていますが、
断食すると恐ろしいことに、人間は食べなくてもけっこう
生きていけるんだとわかりました。
何も食べなくても、体には体を維持しなければ、
という大変に恐ろしい、自動プログラムがあり、
なんとエサがなければ自分の体内を喰ってエネルギー
を作り出します。
人間のからだや、生まれてくるすべては 「業」 に
よって生まれてくるとされます。
私、とは、 「業そのもの」 といって良く、意思では
どうにもできません。 たとえばマクロファージに
「頼むからガンを攻撃してくれ」 とお願いしても
ダメで、免疫にガンを攻撃してほしければ、やはり
免疫たちにその言葉がわかるようにお頼みしなくちゃいけない。
断食がそのやり方の代表であるようですが、
そういう、ちゃんと伝わるやり方でないと自然界
は動いてくれませんが、伝わるやり方をすれば
嫌でもそのようになるのもまた、自然界です。
まさに 「オートメーション」 なのです。全自動プログラム
なのです。
この 「全自動プログラム」 で、 意思ではなかなか
いかんともしがたいものが 「業」。
けれども、その業は、 「意思を持ってなされた
善悪の結果を出す行為」 でもあるわけだから、
やはりすぐには結果が出なくても、無駄だったとしても、
がんにならないように生活を意思の力で積んでいくとか、
不遇でもがんばる、負けないぞ! と努力することは
大事なんですね。 これも業の半分だからです。
そして、もしかしたら、 「意思を働かせて積むカルマ」 が
やがては、全自動オートメーションシステムにさえ影響を
与えるかも知れません。
そして実はこれ、遺伝学ではもうその通りなのです。
たとえばすぐに切れたり、怒る人っていますよね??
虐待は、親から子へ、子から孫へ遺伝する
とも言われます。 天皇家などは恐ろしいことに
2500年以上も前から万系一世で、血脈が続いて
きたために、実は天皇家はみんなものすごい天才
シャーマンで、昭和天皇や明治天皇などは高度な
神霊と感応できると言われています。何千年もシャーマン
をしてきたので、そういう特殊遺伝子が受け継がれている
のだ、と。。。 平成天皇も、あのおだやかな物腰を
拝見いたしますと、人目で万民を説得するオーラがあり、
ただものではない感じがします。
そういうのも、2000年以上積んできたのだから、
生半可なことではありません。
虐待も、母にぶたれた子が、 「わたしの代でこんな
悲劇は終わらせる!」 と決意し、子どもを殴らない、
おだやかな日々を1年、2年と積み続けていけば、
実は怒りやすさの遺伝子が弱くなり、温厚な遺伝子が
発現してくることは医学的・生物学的に証明されて
いるのです。
うちは音楽家の家系じゃないといっても、ある世代で
音楽に親しみ、それを積んでいくとその家系には
音楽家が増える。
だから、努力して業を変えなさい、とお釈迦様は
いうのですね。そのための 「鏡」 として、自分自身
の今の努力を見せるのが 「占星学」 なのだろうと
思います。
そういう指導ができない占いになどなんの
意味もありません。
転生で軽やかに
【壱ノ怪】星月ノ井、千年の刻待ち人(19)
19:かぐら、玉響に涙す
「待て。様子がおかしい」
烏天狗が全員をそう言って止めた。
「は?何がだ?」
クラブ顧問は新聞部、
職員球技大会ではなんとか参考書を読み漁って知識を叩き込み勝ち取る審判役、
体育祭は先輩に花を持たせるふりをして適当。
学生時代からゲーム三昧の体が悲鳴を上げている。
中学の頃の先輩に誘われて仕方なくやった高校のサッカー部だけが唯一自分の体の基礎を作り上げている。
あれはしんどかった。
何がしんどいって、モテる上に運動神経があり、勉強もできる奴らと同じ部活にいるととんでもない公開処刑になる。
モテる奴らを見に来た女子にまるでいない者と扱われるならまだいい。
そいつらにかかわる何かでトチろうものならブーイングこそ来ないが、しんと静まり返る。空気が完全に凍てつく。
例えるならデザートに乗ったミントのようだ。
写真を撮ったらすぐに“ポイ”
乗ってる意味は彩だけだ。
・・・いや、ミントは彩を持っていて写真も撮られている。自分はミント以下だったな。
息が上がりながら走馬灯を巡らせていると全員が上を向いて眉根を寄せる。
「あいつら一向に襲ってきやしねぇ…。何か魂胆があるはずだ」
「アイツらって何d・・・」
「このまま家に帰るのはまずいのう。どこかでまとめて処理せねばならん」
「いや、だからアイツらって何…」
「しかしあの量です。人にも見られたくありません。家から過ぎれば疑問に思われます。それに山は危険かと」
「あの、皆さん?俺の事見えてます?」
烏天狗、狐少女、小舞千さんと無視されてまた置いてけぼりだ。
「神楽大丈夫!私が守るからね」
子龍様。お前は天使か?
自分の左手を握りながら見上げて言う子龍は、まるで自分の子供のように可愛い。
いや、もはやこれは孫のような心境かもしれない。真剣な瞳だ。多分自分が不安がっていると思っているのだろう。
まあ、確かに不安だが。あの量とか言ってるし。
「・・・海に行く他なかろうな」
狐少女が考え込んだ末にそう言う。
「海…ですか…」
「由比ヶ浜なら大丈夫じゃろう。なるべく端の方へ行くぞ」
狐少女が海と言った瞬間彼女は顔を曇らせた。
一同回れ右をして若宮王子から下馬方面の交差点へ行く方へ歩いて行く。
夜となり人通りは大変まばらになった。
ここ鎌倉は東京が近いせいと、ホテルがほとんどないせいか店のほとんどは16時や17時頃みんな閉まってしまう。
空いてるのは駅前の方か、barなどだ。それもそこまで多い数ではない。
今頃歩いてる人たちは地元の人間であろう。
灯篭を横目に速足で歩き、鎌万というスーパーを通り過ぎ一の鳥居を潜る頃には全員走り出した。
時折体のどこかがまるで刺されたように痛い時がある。
そのたびに小舞千さんが何かハエを追い払うかのような仕草をして何かを避けていた。
「剣が使えればいいのに!!」
「気持ちは分かるがこの数だ!それに走りながらじゃ神楽や俺たちに当たっちまうぞ!!辛抱しろ!!」
とんでもない物騒なことを言いながら小舞千さんが歯噛みする。
狐少女や烏天狗が結界を張りながら自分を護るために戦ってくれており、子龍も何か来たら叩き落とすようなそぶりをする。
ただ、自分にははっきりそれが見えない。
影のような、陽炎のような。
そんなものがいるような、いないような、だ。
ただ、痛さだけは本物だ。
右肩が激痛で上がらないし、右の脇腹だとか首だとかも痛さでしんどいほどだ。
こんな非現実的なことがあっていいのだろうか?
見えない何かがこの世に存在していて、そして今悪意を持って人間を攻撃している。
どんなカラクリで誰がやっているのか?
神様や眷属、小舞千さんら小笠原家が長年生きてきてこんなことはなかったというこの出来事は果たしてどんな全容になっているのか?
この世界初心者の自分には欠片も良く分からない。
昼間はのんびり井戸見てランチ食べていたのに、夜は海までマラソンだ。
体中が痛いし、腹が減ってどうしようもないし勘弁して欲しい。
「海が見えるぞ!あそこの横断歩道を渡ったらすぐ浜に出て、左に走るのじゃ!」
狐少女の言葉のままに全員が走りながら青信号を渡る。
後ろのローソンの明かりがやけに平和に見える。
砂だらけの階段を降りると全員まっくらな浜を左に走った。
何組かカップルや散歩の人がいて正直こんな中で対処したくないぞ?
と思ったが、狐少女の言うとおり端の方は人がいなかった。
それも、海に明かりはないのでやや暗めだ。
後ろの町の明かりが明るいのが難点だが、あまりに暗すぎても人間の自分たちは見えない。丁度いい明るさなのかもしれない。
「さて、ここで迎え撃つことになるがはてさて…どうしたものか」
「神呼び舞か?」
狐少女と烏天狗がそう言って、砂浜に文字を書きまくっている小舞千さんを見た。
なにやら読めない文字やら記号、それに星なども書かれている。
なるほど。地面にこうして直接かける砂浜は便利だ。
サッパリ何をしているかは分からないが。
「あの時は家だったので大丈夫ですが…ここで大丈夫でしょうか?」
「大丈夫と言いたいところだが、お主の心持次第。それに、相手がもし神だった場合…防ぐのが精いっぱいであろうな」
狐少女が眉根を寄せる。
夜の海は不気味だ。
波の音が暗闇から聞こえて来る。
風が遥か太平洋から吹き込んできていて、なにやら向こうの方から立ち上る煙のように黒い影のようなものが空にある。
あれが何なのかは分からないが、近くに道路も通っているはずなのにとても静かだ。
「まあしかし、この程度ならば…天照様ならば恐らくは…」
「だがもし、これが倒すこと前提で何かハメる作戦だったとしたら厄介だぜ?もしかしたら呪いつきかもしんねぇ」
「すでにもういくつかは喰らっているじゃろ。もはや倒す以外にない」
狐少女と烏天狗がだんだんと言い合いのようになってきている。
揉めているようだ。
相手が分からない以上、舞が完成するまで防ぐがその後効果があるか分からないと言った具合だ。
<
br>
「鬼神様にお願いするしかないかのう・・・」
そう言うと烏天狗以外がこっちを見てきた。
「あれは見える奴には見えちまうぞ?身を隠す場所がないのに派手すぎる。それに、神楽がぶっ倒れちまう!神呼び舞で市杵島姫命様方に助けを乞い、海の祓いをしてもらうのが上策だ」
「じゃがこんなこともできないようではいざと言うとき鬼神様がお出になった時に危険が増すぞ?今から慣らしておかんとこの先の鬼神様にとっても神楽にとっても良くないではないか」
人間だけが二人の攻防をあたふたと聞いていた。
彼らがここまで言い合いになるのは初めてかもしれない。
だからと言って人間のように喧嘩になるとかそういうものではないが、非常に厳しい雰囲気だ。
と、その間にむりやり入る者がいる。
子龍だ。
むりやりねじ込んで、その小さな手で二人の足を押し、距離を取った。
「神楽、大丈夫。あそこでご飯たくさん買う!!」
「・・・はい?」
あそこ。と、彼は若宮大路から由比ヶ浜に入る交差点の角にあるローソ●を指さした。
「あの…何でご飯を…」
「小舞千!!買ってくる!!食べさせる分と、終った後に食べる分!!」
「は、はい!!」
小舞千さんが自分に何らかの術を被せてから一気に浜を走り抜けていった。
「え?俺だけご飯食べる感じ?」
「神楽はごはん沢山食べないと!二人分食べないと体力も気も満ちない。だから沢山食べるの」
それには烏天狗も狐少女も同時に手を打って頷いた。
「なるほど!!だから腹がすぐ減るし、あれだけ食えるんだな?!」
「ただの食いしん坊かと思ったぞ神楽よ!!」
こいつら本当に現金な奴らだな…。
心の中でこぶしを握った。
買ってきましたよ!!
と、小舞千さんは大きな袋を抱えて走ってきた。
中を見るとおにぎりだとかパンだとかがひしめいており、おまけに別の袋には●チキだとか肉まん系などがわんさか入っていた。
ー小舞千さん、俺をゾウか熊かと思ってるのでは・・・?
「さあ食べるのだ神楽!!お腹いっぱいになるまでね!!」
ーこんな全員ドン引きしてる中一人こんな寂しい所で腹いっぱい食えだと?子龍君…。
それにこれ一般人が見たら・・・
岩場の影、夜の海岸でめっちゃ飢えたキノコ野郎がロー●ンの食べのもガチ食いしてるとしか思われない…。
実際その量に自分も引いている。
それも、その量を食べれる気がするだけにそこにも引いている。
しかし、こんな落ち着いて食べれない食事があっていいのだろうか?
その間に神呼び舞をするということで小舞千さんが舞をしている。
ダウンを脱いで、この寒空と鬼なんだか分からないものが来ていて寒い中、
紫陽花色のカーディガンと下の白シャツが海風で揺れる。
ほつれた髪が舞い上がり、白いスニーカーがすり足によって地面の砂を舞わせる。
あんな綺麗に舞える人間が、この日本にいるのだろうか?
指の先まで神経がそそがれ、誰かのためにと形どっている。
「神楽よ。見とれてないでちゃんと食(は)め」
耳元で狐少女がささやくので驚いてまた食べ始めた。
咽そうになったところでお茶をくれたので確信犯かと思われる。
神呼び舞は成功した。
江ノ島にいらっしゃる田心姫神様(たごりひめのかみ)、湍津姫神様(たぎつひめのかみ)市杵島姫命様(いちきしまひめの神)
海や水の神様方、宗像三女神と言われている方々がいらしてくださった。
だが、やはり数が多すぎる上に神相手だったこともあり結界や祓いが強まっただけで追い払うまではいかないようだ。
神は神に攻撃ができない。
それは向こうも同じようだがこれではらちが明かない。
自分たちが仮面を被り神になったとしても帰ったらもう神ではなくなった益興さんと藍子さんがいるのだ。
彼らに被害が及んだら大変なことである。
「結界の範囲と強度を広く、強くしていただきましたが祓いまではできないそうです。なのでやはり…」
全員が自分を見る。
確かに。
この状況をいっぺんに解決するには自分がもう一人の自分である鬼神になるしかないだろう。それが手っ取り早い。
こうして半強制的にコンビニ飯という体に悪いご飯を食べて準備をしているわけだし。
だがである。
「いや、分かるが俺・・・鬼神のなり方知らねぇぞ?」
「・・・何?じゃああの時どうやってなったんだよ?」
「・・・記憶がない・・・」
烏天狗が首を振って額を抑える。
「おいおいどうする?思い出せ!神楽!直前までは覚えてるだろ?!」
「…小舞千さんと話をしてた・・・かも?」
「どんな話だ?!」
小舞千さんはまだ舞い続けている。
もしかしたら天照様が協力してくれるかもと舞ってくれているのだが、
彼女の体力にも限界がある。
この夜の時分に天照様が来てくれるかはかなりの賭けだった。
だったら、自分が鬼神になった方がいいというのは分かっている。
分かっているのだが…。
「・・・何か、怒られてた気がする」
「よーし皆!神楽を罵詈雑言ののしりまくるぞ!」
「ぜっっったい違うから!!ぜっっったい違う!!」
狐少女がため息をついてイライラと砂をまき散らしながらうろうろと歩き回る。
「面白おかしくしている場合ではなかろう!・・・あー!一体どうすればよいのだ?神楽の頭がこんなキノコ・・・じゃなかった。カボチャ頭でなければのぅ・・・」
「お前今なんて言おうとした・・・?」
いや、どちらにしろおかしい。だが、本当にそれどころじゃない。
さてあの時の内容は…
「簡単だよ」
子龍が不思議そうにつぶやいた。
全員の動きが止まる。
「でも、皆僕の事怒るかもしれないから・・・」
そう言ってうつむく子龍に全員が首を振った。
「いえいえいえ!!怒りませんって!!お知恵をお貸しください!!」
烏天狗がそう頼み込み、狐少女が頭を下げてるところを見ると、神様と眷属、更に神様同士でも上下があるのだと分かる。
こうして大人な二人が子供に腰も低く頼み込んでいるのは本当に不思議な光景だ。
昔の殿さまの息子の若君なんかはきっと家臣からこの状態なのだろう。
「え・・・?怒らないの?じゃあ・・・神楽の中の鬼神、私起こすね?」
子龍君は、天使のような微笑みで
片腕一振り、地面から天井までの結界を
蒼い光でぶっ壊した。
「ええええええええええええーーー?!」
もはや一文字しか口から出てこない。
しかも、一番無防備だった小舞千さんが危ない。
自分にすら見える青黒い影が・・・恐らく一体4メートルぐらいだろうか?
そんなのがとんでもない数うごめいていた。
蟻の巣穴の近くに飴でも落としてそこに群がる蟻のように、もはや数えることもできないほどだ。
それが、小舞千に覆いかぶさろうとしている。
「小舞千さん!!」
足が動いた。
絶対に傷つけさせないと思った。
ただそれだけで、自分の身がどうなるとは考えず走っていた。
■
「何故止めるんです?!」
烏天狗が自分を止めた子龍に思わず怒鳴ってしまった。
「怒らないって言ったのに…怒った・・・!!」
子龍は身を縮ませる。
「やっていいことと悪いことがあるでしょう?!」
神楽が小舞千をかばい、地面に突っ伏した上に鬼のような良く分からない得体の知れないものが次々と覆いかぶさっていく。
「あれは・・・呪いじゃ。強力な呪詛じゃぞ・・・。それも人間が到底できる代物ではない。怨霊レベルじゃ」
「・・・あれ一体だけで人間なんかあっという間に死んじまう・・・ッ」
絶望が辺りを取り巻き、呪詛の人型はどんどん覆いかぶさり山となっていく。
だというのにどこからともなく、大地から、空から次々と現れる。
そんな中、浜の端の方にいた白い男の子がその山の近くに来ていた。
「取り込まれちまうぞ・・・ッ!」
虚無な、呆けた顔の黒い穴だけの目が恐らくその山だけを見ている。
「もう絵舞などどうでも良い。神楽と小舞千が無事なら私は・・・私は・・・」
狐少女が涙を流すと子龍が“ほら!”と指さした。
「だから、大丈夫だよ!呪いがどんどん来てる。まだ死んでないよ。それに・・・朝霧と鬼神の力も想いも・・・こんなものではない!
さあ神楽!鬼神よ!!目覚めよ!遊びは終わりだぞ!!」
子龍がそう叫ぶと少し間があった。
もはや丘のようになっている人型の呪詛は気味悪くうごめき続けている。
が、
風が止んで、空の色が赤く、雲の色が黒くなった。
その瞬間、その山のあらゆる底辺の隙間から
まるで火炎放射のような勢いで蒼い炎が噴き出した。
「うおっ?!」
四方八方に広がる蒼い炎の轍は、
遠く海面を、
砂浜を、
道路の先まで
半径100メートル以上一瞬にして走り抜け、燃えた。
炎の熱が巻き起こり、熱いはずなのに凍える。
背中がゾクゾクとしてしかたない。
子供の怨霊はその炎から免れたが、本当に近くに蒼い炎の轍が出来ており、物理的な洋服なども無いのに、
粗末な白い服とザンバラで汚れた髪が炎に合わせて舞い上がった。
「おい!そこから離れろ坊主!!死ぬぞ!!転生も叶わなくなるぞ!!」
熱か冷気か分からない風から羽を出し、狐少女らを護りながら烏天狗が叫ぶが・・・彼は何かを見ている。
ずっと怨霊の山を見ていた。
と、山全体が一気に燃え上がった。
龍が地上から山をぐるぐる回りつつ天へ上るように・・・
炎が山をとぐろを巻いて駆け上り天へ蒼い火柱を立てた。
余りの勢いに呪詛も、宗像三女神様方も遠く離れたほどだ。
明るい。
この山を中心に周りがとんでもなく明るくなっている。
少し暗い明るさだが、目がくらむ。
まだ竜巻のように燃える炎の中から手が出てきた。
その手は、怨霊の少年のほうに手が伸び
頭に置かれた。
怨霊の少年は、熱風の中舞い上がる髪をものともせず顔を上げた。
「下らねぇものほど、良く燃える…」
「・・・鬼神・・・」
蒼い炎から出てきたのは、神楽の洋服を着たどこか青銅色の顔色の鬼神だった。
右手にぐったりとした小舞千を抱えている。
そして、その銅褐色をした瞳の
には怨霊の子供を見ていた。
子供は遠くから見ても体を震わせていた。
感情が無いはずの怨霊が、立っていられないほどガタガタと震えている。
「・・・鴛鴦(おしどり)二匹がお前を舞台に呼ぶと言ってんだ。・・・殺さねぇよ。・・・だが、その邪魔な穢(けが)れはチリにする」
そう言うと鬼神は一瞬にして怨霊の子供を蒼い火だるまにしてしまった。
苦しむ子供は頭を抱えながら聞くに堪えない叫び声を上げる。
『悪荒湍津鬼彦神(あこうたぎつきひこのかみ)殿』
沈黙をしていた宗像三女神様がそう呟いた。
どこか遠巻きに、言った。
空の上の方にいて顔までは見えない。だが、声だけがはっきり聞こえる。
その言葉を聞いてか聞かずか、鬼神は言う。
「お前の願いは分かってる。・・・」
彼は海を振り返った。
と、海から何かが上がってくる。暗い海から黒く丸いのが
ゆら、ゆら
と一定の速度でどんどん海上に上がってきた。
顔が半分出てきた。
・・・顔だ。
少し止まるが、また動き出し、歩き出す。
だが、その腐敗した体と骨の出た体は地上を歩くには心もとないのか、
すぐに浜に突っ伏して這いつくばって動き出した。
ぬらぬらした瞳は燃える子供と鬼神を見ている。
歪めた表情からは苦しみから来るものかも分からない。
男か女かも分からない。
骨に腐敗した肉がぶらさがってるだけの化け物だった。
思わず烏天狗と狐少女は鼻と口を覆う。
「何してんだ・・・。お前の子供の方が苦しそうだぞ?早く行ってやれ。歩け。自分を思い出せ。その肉体も苦しさもお前が作った幻だ」
腐敗した者は立ち上がろうとするが上手く立てず、なんとか四つん這いになり鬼神の元へ行くと近寄りはしないが、
恐ろしい形相で睨みつけた。
が、鬼神は片方の口角を上げてにやりと笑う。
「ほう。俺に対してその態度・・・笑えるぜ」
なおも睨み続ける腐敗の者から目を反らして鬼神は尚もいう。
「はぁ・・・。可哀そうになぁ。お前を信じて待ってたってのに人間にも鬼にも襲われてこの様だ。・・・そして今感動の再会をしたってのに助けてもくれない・・・。人間も神も、どいつもこいつも己の身の保身だけだ」
燃えて砂浜に倒れている怨霊の子供は未だ炎に包まれている。その光を鬼神の目が移しだし、蒼く揺れていた。
「違う・・・!!」
右腕に抱えていた小舞千が、鬼神の胸倉を掴んでいた。
涙を流しながら。
「違います鬼神様!!あなたも分かっているはずです!!それだけではないことを!!だから貴女は朝霧とこの世に来られたのでしょう?!理由は分かりませんが、貴方は・・・良い神です!なのに・・・どうしてこんなこと・・・そんな言葉を!!」
じっと、鬼神は小舞千の瞳を見てきた。
無表情に。
「貴方の孤独を勿論私は知りませんし、何があったのかも、地獄でどうだったのかも何もわかりません・・・!しかし、我々と神になるのならば・・・どうか光を見てください!朝霧と神楽さんを信じてください!」
胸の服を握っていた小舞千の手を振り払う。
鬼神は腐敗した者に手をかざした。
「俺に光などない。闇と穢れを纏(まと)った堕(おち)神よ」
火の粉が飛んだ。
蒼い火の粉が腐敗した者に向かう。
が、小舞千が扇で叩き落として手を広げた。
「その子のお母さんなんです!これ以上、この親子を・・・苦しめないでください!!」
小舞千の膝が蒼く燃えだした。
それを鬼神は目を細めて見るが、
そこに手をかざす者がいる。
知らない女性だ。
農民服のような粗末な服を着ているが、頭に手拭いを巻き、美しい瞳をしていた。
微笑んでその炎を自分に移すと燃えている子供の方へ向かう。
『弥太郎・・・弥太郎・・・』
そんな声がした。
そして、そのやせ細った体をその子供を包むように抱きしめた。
『今来たよ。おっかぁは、今来たよ・・・待たせたね。今日からずっと一緒だね・・・』
炎に包まれる二人はその中でお互い目を見合わせた。
「鬼神様!炎を消してあげてください!!」
鬼神は眉間にしわを寄せて迷惑そうに眼を閉じていた。
体も傾かせている。
「五月蠅い女だ・・・時期鎮火するだろうよ」
「時期じゃダメです!」
腕当たりの服を掴み、揺すりながら言う。
と、小舞千の額を鬼神が小突いた。
「いたっ?!」
「盛りのついた猫かお主は。黙って見ていろ」
「さか・・・ッ?!」
驚きに身を固めていると火の勢いがどんどん弱まり、
ただの薄い影の人間が生まれた。
いわゆる、普通の霊体だ。
それに本人たちも、鬼神以外の全員も目を丸めて瞬きをただ繰り返した。
まあとは言っても、子供の方はまだ表情はかなり厳しい。
“何もかも信じず、恨んでいます”そんな表情だ。
怨霊ではないが、人間に出くわしたらかなりの障(さわ)りがあること間違いなしだ。
限りなく怨霊に近い。
母親はそれをやや遠くで気づかわし気に見ている。近寄れないようだ。
「まだお母さんに会えたこと、ちゃんと気が付いてない…?早く原因を解いて舞ってあげないと・・・」
小舞千がふらつく体をなんとか支えながらそう眉根を寄せて言うと、
ふいに鬼神がそちらに顔を向けながら言う。
「・・・かけ違ってんな・・・」
「え?」
声が小さすぎて聞こえなかった小舞千は鬼神に問いかける。
が、鬼神はちらりと小舞千を見ると
「じゃあな。野良猫」
「んなっ?!」
捨て台詞を吐いて鬼神は居なくなった。
その代り、目の下に立派なクマをつくった神楽が肩を落としてフラフラと立っていた。
「ん?あれ?ここは・・・?」
神楽が寝ぼけているように辺りを見回してから小舞千を見た。
すると怒りの形相で小舞千がこぶしを握っていた。
「次、鬼神が出てきたら全体重と全霊力を使って殴り飛ばしますので
気が付いたとき歯が何本かなかったらすみません」
「え・・・嫌ですけど・・・。ていうか、あんたらの血筋はどうして一度の情報量を調節できないんだ・・・?」
静かになった浜辺に神楽の疲れた声が響き渡った。