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Ⅰ 無菌室の思い出
その頃、ユッコは28歳で
私と同い歳で
無紺病棟の中の
私の隣の病室で
3度目の臍帯血移植を待っていた
移植をしても移植をしても
生着しない細胞
ユッコの髪は抜け
肌は薬の副作用で
黒と白のまだらになって剥がれ落ち
腕も首も 注射やカテーテルの入れ直しで
硬くなって内出血していた
トイレや洗面所で
骨と皮ばかりになったユッコに出くわすたび
私はうつむき 思ったものだった
なんてこと
先生なんとかしてあげて
あまりにもひどすぎるよ
でもああ あれが
わたしじゃなくて よかった
あの時 自分の中から自然と湧きあがった
どす黒い安堵感
あの気持ちを15年経った今も憶えている
わたしじゃなくて よかった
15年 私はそれを恥じてきた
あの世で顔向け できないと思った
今 私はあの頃のユッコと
同じ体をし 同じ目をしている
深く穏やかな あきらめとかなしみ
やっとあなたの気持ちが
わかったよ
もう恥じることはない
計りしれない大きな力が
わたしをずっと苛んできた
大きな罪から救ってくれた
あなたの場所へ 下りたことで
やっとこれで再会できる
あの頃 夜中に啜り泣いているあなたに
声をかけることも 手を握ることもできなかった
あの声が 私の中に響いてる
傷だらけになった体を脱ぎ
とうめいな ひかりになって
さあ あなたのいる場所へ行こう
Ⅱ 帰宅
伯母ちゃんはいつも
「さあ帰ろ」と言ってからが長い
「帰ろ」と言って立ち上がり
死んだダンナの話をし忘れたことを思い出し
話し始めて また座る
30分くらいして
また帰ることに決め
バッグを持って 玄関まで行ったはいいが
昨日聞いたキムラさんの嫁姑問題が頭をよぎり
バッグを置いて もう30分
やっと息が切れて 「はいじゃさよなら」と
自転車に乗って 去っていった
さいしょに「帰る」と言ってから
ほんとに帰るまでに小一時間
いつもやきもきしていたが
私もさすがこの人の姪
最初に「還るわ」と言って15年
しぶとくくだらぬ話を ばらまいてきた
「あら いつのまにかのんびりしちゃったわ」
遠くで 正午を告げるサイレンが聞こえる
ここで還らなくては 午後になってしまう
私の家は 大地だったか 天空だったか
でかけて見れば 思い出すだろう
自転車にまたがり バッグを持って
出てきた場所に 戻るのだ
Ⅲ
肌が治ったらお風呂に入ろう
湯船にたっぷりの お湯をはって
ユーカリの香りの 入浴剤を入れて
手足を伸ばして
骨の髄まで あたたまる
足が治ったら
歩いてセブンへ コーヒーを買いに行こう
早く起きて 会社に行く人たちの列にまじって
カフェラテのLを注文し
ちょこちょこ飲みながら 公園まで行って
木の下のベンチで 最後の泡まで
ずずずと飲み干す
病気が治ったら
もういちど 前の施設でバイトをしよう
あっちゃん やまぐちくん 恵子さん
おはようと言って 入って行ったら
きっとみんな走ってきて 体当たりで抱きしめてきて
おかえりといって 歓迎してくれる
みんなの好きな チョコのアイスを
両手いっぱいに抱えて
英雄気取りで配りまくる
叶わないと分かっていても
望みは何度も 深夜のベッドを訪れる
そのたくましい 無知の力で
今をまた 生きていくんだ
当時ユッコ(仮名)がよく聴いてたCD。中島みゆき「転生」
この中の「命のリレー」をリピしていました。
ここ数日40度前後の高熱が続き、T病院から急遽、
近くのがんセンター(緩和ケアの予約を入れてあるところ)の
血液内科に紹介状を書き変えてもらい、転院しました。
紹介状のデータと、私の今の状況を見て、の見解は
「これからなにか治療をして、体調を立て直して元気になる、
という方法は現実的ではない」
のだそうです。(笑)
もうなすすべがないんだなーというのが、その言葉の節々から
わかりました。
皮膚はGVHDで、入院治療もできるそうですが、
GVを免疫抑制剤で押さえると、一気に白血病がすすむ可能性があるらしく
保湿のみの処置になるそうです。
「やってもなあ・・・、治るわけじゃないからなあ・・・」
とすごく親切な今度の主治医が、
やりきれないといった表情で呟いてくれました。
今夜もまだまだ掻いています。
書くことで気がまぎれて良かったです。ヽ(^o^)丿
いつもたくさんのご訪問&いいね
(メッセージなどなど)を
ありがとうございます!
今日も良い一日でありますよう♪
ヽ(^o^)丿
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